ねぇ、
誰?
ねぇ、
何?
ねぇ、何を見てるの?
...空。
何を考えてるの?
岩の裏の蟻のこと。
なんで?
空が広くて、僕が小さくて、蟻の中の1匹が死んでもどうでもいいから。
よく分からない。
だれも僕に興味なんて持ってくれない。
そうなんだ。
でも、そんな僕だって周りに興味なんて全くないんだ。
そうなんだ。
僕がそうだから、本当の本当に全員が自分のことしか考えていないんだ。
本当だね。
だから絶望だ。
そうだね。絶望だ。
だからもう死ぬしかない。
そうかも知れないね。
じゃあさよなら。
ちょっと待って。
何?
私にかまって。
なんで?
私に興味を持って。
なんで興味を持たなきゃいけない?
あなたが私に興味を持ってくれれば私はそれ無しでは生きていけなくなる。
だから?
私はあなたを手放せなくなる。だからあなたの言うことをきくようになる。
...言うことなんて聞いてくれなくていい。
コントロールできるんだよ。
だからいいって。
幸せなんて所詮自分の思い通りに行くことでしょ。
思い通りに行っても、本物の興味をもってもらえない。
あなたに興味を持ってもらった私の興味は本物だよ。
けど僕の興味は偽物だ。僕は僕にしか興味がないままだ。
けど私には分からない。
けど僕には分かる。だから君の興味も偽物かと不安になってしまう。
私は偽物の興味でも構わない。私は、あなたに言葉さえもらえれば本物の興味をあげる。
君がなんて言おうが、何をしてくれようが、信じることができないんだ。
じゃあどうなったら満足なの?
...分からない。
最期まで騙せばそれは本物と変わらなくない?
最期まで騙すなんて無理だ。君も僕も。...いい人かと思った人は今までも何人かはいたんだ。だけど、いざというとき誰も僕の味方なんてしてくれなかった。自分を守ったんだ。だから誰も信じることができない。僕は本当の一人なんだ。
怖いの?
怖いよ。いつだって裏切られるのが怖いんだ。誰かと近づけば近づくほど、裏切られる日が近づいている気がするんだ。
じゃあ、いざという時私が裏切らなかったら、あなたは変わる?
...どうだろうね。
こんな人も世の中にはいる、って信じられるよね?
そうだね。そうだけど、けど、ねぇ、君はよくみたら猫じゃないか。
ああ、うん、そうだった。
だから君が僕を裏切らなかったとしても、その時はやっぱり人間を信じられなくなる。
そう。やっぱり人間を信じたいの?
うん。人間を信じられた日にはきっと自分も信じられるから。
...じゃあ私は何もできないね。
けど一つ聞きたいことがある。
何?
猫は人間が好き?
...好きだよ。けど怖かった。警戒してた。今のあなたみたいに。けど、いつだったか、小さな手が私の頭を撫でてくれた、あの感覚がずっと残っていて。
もう一つきいてもいい?
いいよ。
君はペットなの?野生なの?
ん~野生のペット。人間と同じ。
ペットと野生はどっちが幸せ?
分からない。ただ...
ただ?
一度ペットになったら野生には戻れない。
そうか。僕は野生なんだろうか、ペットなんだろうか。
最期までわからなきゃ、一緒だよ。きっと。
そうかな。
そうだよ。だからさ、どっちにしても私を撫でて。ペットでも野生でも私はきっと撫でてほしい。あなたがどんな人でも特別な人になるの。あなたを特別な人にするために、ほら、撫でて。
短編『フリーターと猫』
完